もう2ヶ月以上も前の事になってしまうけれども、先日南ドイツ新聞(Sueddeusche Zeitung) の金曜版に折り込まれる SZ Magazine がオンラインでも読めるようになったのでいろいろ思い出しながら書いてみようと思った。ベルリンフィルが11月に日本にやって来たときの事。多くの楽団やオペラがキャンセルするなか、「まぁ彼らもそうだろう」と思われたなかでのベルリンフィルの来日。チケットはあっという間に完売だったそうで、記事の中にも書かれていたけれども知り合いの杉谷さんもその中の一人でなくなく演奏会をあきらめた。タイトルにある「 ancafe 」は妹の経営するケーキ屋さん。両親筆頭に近くに住む方々、もしくは杉谷さんのように時間をかけてわざわざ遠方から足を運んでくださる方々に支えられて継続されている小さなケーキ屋さん。その妹が「ねぇ、ドミニクここで演奏してくれないかなぁ」と私に聞いてきた。イングリッシュホルン奏者である彼とは10数年来の付き合い。ベルリンでは彼の家族の中によくいさせてもらった。演奏会もよく聴かせてもらった、お世話になった友人。出産前にザルツブルグで会った時「次会うときは君の子供も一緒だね」と再会を楽しみにしていた。音楽家としてとても尊敬しているので、妹の問いかけに私はだいぶ迷った、というより「そんなの聞ける訳ない」ととりあえず保留にしていた。しばらくして10年のドイツ生活でやっとできるようになった「尋ねるのはただ」(何かを質問するのにお金はかからないという発想)を思い出し、もし聞く事をしないで後から「なんで最初に聞かなかったの?」と言われて後悔することほど悲しい事はないな、と勇気を振り絞って尋ねてみた。すると「いいよ!」と快く返事が返って来たのでそれまでいろいろ考えた自分がばかみたいと思ってしまった。彼らはすでに中国にいたので「手持ちの楽譜の中からしかできないけど」と彼の同僚のマンフレッド(クラリネット、当日はソプラノサックスを演奏してくれた)を誘ってくれお昼時の30分の小さなコンサートには十分な用意をしてくれた。報酬は「ケーキ食べ放題」。当日は30人くらいの(記事には20人と書いてあるけれども30人は最低いらしてくれた)人が集まってくれ、その中の6人は赤ちゃんだった!息子が最後に「うぉー」っとブラーヴィの歓声を上げた以外は(笑)みんな静かに聴いていた。小さな部屋できく木管楽器の迫力はかなりすごいのに。彼らの演奏会スケジュールはいままでに無いほどタイトだったにも関わらず、その晩も最後の演奏会があったにも関わらず快諾してくれた彼らの演奏は人情味あふれたものだった。なによりも、杉谷さんのようにファンで演奏会へ行かれなかった人達への最高のプレゼント。演奏会後は写真撮影やサイン会。最初に断りを入れると、「何でもいいよ。写真でもヴィデオでも」と言えてしまうのは本当の自信があるから。数えてはいなかったけれども、確かに報酬ではあったけれどもとんでもない量のケーキを食べて行ってくれた彼ら。「ここのタルトは最高だね。このクリームも!」食べながら、話しながら、冗談をいいながら、笑いながら過ごした数時間の間に私は「ホームシック」にかかったようだった。「演奏会はね妹の提案だったの。私はそんなの聞けないよ、と思ったのだけれども後悔するよりはいいと思って尋ねてよかった」と言うと「本当だよ!僕たちにとってツアーの間のこういう時間はとても大切なんだ」と話ししてくれた。「誘ってくれて本当にありがとう。素敵な時間だった」と感謝してくれたのは私もびっくりするくらい嬉しかった。音楽がもっと身近だったら、Tシャツ+ジーンズで行っても後ろめたさを感じなくてよいクラシックのコンサートがあったら、と願っていた私にはとても嬉しいランチコンサートだった。もちろん、個人の楽しみで特別な機会に特別な格好をしてゆくコンサートがあってもいいと思う。でもクラシックはもっと身近なところにあって、聴いてみると意外にリラックスできたりするもの。だからベルリンでは「意外」な人がクラシックが好きだったり、コンサートへ行っていると知って嬉しかったりもした。(そもそも「意外な人」ってどんな人なのか、その線引きをする自分に笑っちゃうけれども)つい最近ベルリンの友人が言っていた。「初めてオペラに行ったけれども、高齢者ばっかりだねー」と。私がベルリンに移動した時ドミニクが言ったのは「君みたいにフィルハーモニカーを知っていたら、日本と違っていくらでも演奏会に入れてあげられるよ」。その裏にはクラシックコンサート普及運動、のようなものがあった。年々、舞台の上にいて年齢層があがっていくのが見える、僕たち音楽家は音楽がなくなってしまうのではないかという不安がある。不安があったら行動しなくてはいけない。私も今その手助けがようやくできるようになったのかもしれない。

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PROFILE

Kurumi Shigenaga

2001年ベルリンフィルへの情熱のためベルリンに移る。
2006年より今現在に至り、西海洋介の元でクリエイティブアシスタントとして働く。
ドイツ語、英語、イタリア語が堪能。
メゾソプラノ歌手としても活動。
趣味は笑う事、食べる事、料理、ヨガ、映画鑑賞、たまにのテニスと卓球。

Came to Berlin in 2001 driven by her love and enthousiasm for classical music and the Berliner Philharmoniker.
Started to work for Koiklub in 2006 as a creative assistant and does so until today.

She is active as a mezzo-soprano singer, loves cooking & food, going to concerts and cycling thru whole Berlin. She is a language pro in German, Italian and English and of course Japanese.