環ROYの3rd フルアルバム。 『あっちとこっち』

update : 2011.03.23 (Wed)

発売日は5月4日(水)に延期になりました。  

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環ROYが3rd フルアルバム『あっちとこっち』をPOPGROUP Recordingsよりリリース!
2011年4月20日発売決定!ラッパーとして、生活者として、様々な感情の機微に触れ人物像と共に時代性を浮き彫りにするフィーチャリングなしの全13曲。


【Review】
このアルバムは絶えず一つのことだけを言っている。それはとても大切な話だから、ぜひ理解してほしい。

 環ROYは前作『BREAK BOY』で明確な苛立ちを見せていた。それは一言で言うと、日本のヒップホップはカウンターカルチャーとしての体裁を繕うために、いつかは「こっち」が勝利する、という物語の維持だけを目的にしているという批判だった。つまり勝利しないことを受け入れれば負けることもないという偽の反骨精神、その醜悪さを彼は嗅ぎ取ったのだ。メイクマネーを気取っても、今どきのラッパーのリアリティに根ざしたレイドバックを歌っても、すべてはシーンの外部に出ないことが前提の予定調和に過ぎない。そもそもこの時代に絶対的な敵を名指しできるだろうか。それはすべてシーンの外部に声を届かせるフリをした嘘なのだ。

 その批判は正しかった。しかも彼は同時に、その「シーン批判」というあり方も一つのパターンとして回収されることに気づいていた。それは結局、閉鎖的な「こっち」側で安全に身内批判を繰り広げているに過ぎない。さらに彼は、前作で名曲として評価された「Break Boy in the Dream」の、一人ぼっちで前進しようとするポジティブな姿勢ですら、一つのテンプレートとして消費されうるとも気づいていた。それは「こっち」から「あっち」へ踏み出すそぶりではあっても、本当に踏み出しているわけではない。外部を目指すなら、本当に目指すべきなのだ。本当に踏み出すべきなのだ。

 ほとんど自分を追い込むかのようなその姿勢は、新アルバム『あっちとこっち』で徹底される。その追求は従来のテンプレートに則るものであってはいけない。ヒップホップマナーを満たすだけなら今までと変わらない。「自分のリズムでダンス」(自分RYTHEM)するとはそういうことだ。自分の中にある全ての常識を「こっち」だけで通用するものだと捉えて、すべてを捨て去り、自分一人になる。そうすれば「あっち」側と共感できるものが見つけられるかもしれない。そのために彼はライミングすらドレスダウンさせるような気迫を見せる。

 そしてアルバムの一曲目から、彼は力強く新たな一歩を踏み出そうとする。そこにあるのは平凡な生活の風景であり、またラブソングの形式だ。その枠組みは平凡なもので、だからこそ単なる観念性やシーンに向けた言葉を越えて、広いリスナーに届ける言葉として、「あっち」への壁を破るものとして選ばれている。この曲が「HAPPY BIRTH DAY / ONE DAY」として、平凡な一日の誕生を祝っている理由はそれだ。したがって、この曲はもちろんのことアルバムを通して、ラブソングとレイヤーを重ねながらに環ROYが歌うのは、やっぱりヒップホップのことなのだ。「ずっと頼りにしてた手がかりを失くしちゃいそうだ」とは、何の基準も頼りにしないという、このアルバムのハードな試みについてのものだし、「GOD ONLY KNOWS」が歌うメールの比喩は、絶対に届かない「あっち」にいる誰かと言葉を交わすことへの期待が込められている。「あっち」とはシーンの外であり、また絶対的な他者の象徴だ。環ROYはオルタナティブな立場を持ったラッパーとして「こっち」と「あっち」を橋渡ししようとしているが、同時に他者へ言葉を到達させることそのものを問うている。彼はそれがシーンのブレイクスルーになるだろうと思った。こんなに日本のヒップホップのことを極限まで考え抜いて、それにすべてを捧げようとしている人間を、僕は他に知らない。  --text by さやわか


『あっちとこっち』 収録曲
01 ハッピーバースデー
02 街並み
03 蒼い日
04 Ms.Solitude
05 自分RHYTHM
06 みえないモノ
07 準備してる
08 フルメタルラッパー
09 伝
10 きっと一緒
11 You are...
12 GOD ONLY KNOWS
13 あるがままで笑える
                     

【トラックメイカー紹介】 

三浦康嗣 [Track 01 ハッピーバースデー , Track 06 みえないモノ]
いとうせいこう、村田シゲ(CUBISMO GRAFICO FIVE)を擁し、坂本龍一主宰のcommmonsより7thアルバムを発表したばかりの□□□(クチロロ)を牽引する。作詞、作曲、演奏、歌唱、音響エ ンジニアリング、舞台演出...等々を一人でこなし、多角的にクリエイトへ携わる総合作家。

PUNPEE [Track 04 Ms.Solitude , Track 07 準備してる , 12 GOD ONLY KNOWS]
曽我部恵一とのコラボレート作「サマーシンフォニー」も記憶に新しいヒップホップトリオ「PSG」の屋台骨。ラッパー「S.L.A.C.K」 の実兄でもある。近年のトラック提供数は目を見張るモノがあり、次世代を代表するプロデューサーとして頭角を表す。

Bun [Track 03 蒼い日]
昨年「OLIVE OIL」が主宰する「OIL WORKS Rec」よりソロアルバム「Adieu a X」を発表した。近年ではUSの先鋭的なHIP HOP/BREKABEATSレーベル「DUBLAB」への楽曲提供を行う他、Ras g, Flying LotusなどのMIX CDシリーズ"KUTMAH MIX"へ楽曲提供を行う。

Eccy [Track 09 伝]
Slye Records主宰。Fuji Rock fes 09'出演。shing02、Aco、toe柏倉などとのコラボレーションを経て、近年はダブステップ/ファンキーなどのUKサウンドへの接近を試みる。 HIPHOPを基盤としたエクスペリメンタルなビートで注目を集める。

Himuro Yoshiteru [Track 10 きっと一緒]
日本のMURDER CHANNEL、UKのWORM INTERFACE、オーストラリアのCOUCHBLIP!、USのZOD等々、国内外の様々なレーベルからリリースを重ねるビートクリエイター。昨年の 上海ツアーも記憶に新しい。国際的視座で日々マイペースに活動を続ける。

EeMU [Track 02 街並み]
クリエイター集団LHW?所属。同名レーベルの関連作にて多くのトラックを手掛ける。近年はケイゾクの続編となるTBSドラマ「SPEC」のサウ ンドトラックに参加するなどクオリティの高い打ち込みで頭角を現す。若干23歳。

Y.G.S.P [Track 05 自分RHYTHM]
若干23歳のプロデューサーデュオ。ham-r、ICE DYNASTYをはじめとする純国産のHIPHOPアーティストへ楽曲を提供する。その他、国内外を問ず様々なアーティスト音源をモチーフに多くの FREE DL作品を非公式発表。縦横無尽な次世代の振る舞いで頭角を示す。

JIGG [Track 11 You are... , Track 13 あるがままで笑える]
GUNSMITH PRODUCTION所属。ラッパーであるSIMONの1stアルバムへEXECUTIVE PRODUCERとして参加。またDOBERMAN INC、SQUASH SQUAD、Y's、MATCHをはじめとする純国産のHIPHOPアーティストへ多くの楽曲を提供する気鋭のプロデューサー。

SHIRANUI [Track 08 フルメタルラッパー]
GUNSMITH PRODUCTION所属。千葉県発のHIPHOPレーベルKINGDOM RECORDS関連作にて数々の楽曲を発表する。また、HIPHOPの元ネタとして知られる名盤を、独自のフィルターを通して紹介するMIX CDシリーズに支持を集める。


2011.4.20 Release
環ROY『あっちとこっち』
POP129 ¥2,600円(tax in)

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